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- metalglue - Aug 24 2006 | z-2006-gauss-award
ガウス賞 数学の奥深さを知った
60年以上も前に考えた数式が、いま世界でもてはやされている金融工学の基礎を築いた。その功績が認められ、90歳の伊藤清・京都大学名誉教授に第1回ガウス賞が贈られた。
暮らしや経済に貢献した数学者をたたえようと、国際数学連合などが新たに設けた賞だ。賞名に冠したガウスは19世紀前半のドイツの数学者で「数学の王」とも呼ばれる。天文学や測地学などでも活躍し、惑星への昇格が話題を呼んでいる小惑星セレスの軌道も計算した。
最初の受賞者に日本数学界の先駆者が選ばれたことを心から喜びたい。
あわせて、この機会に考えたいことがある。
伊藤さんの数式は、偶然の要素が大きい分子の運動などを表すための理論研究の成果だ。80年代に入り、株価など不確実な現象を予測する方法として使われだし、金融工学を飛躍的に発展させた。
私たちは、6月13日の社説「数学の力」で、数学の理論は何十年もたってから応用の道が開ける場合が多いことを指摘した。伊藤さんは、身をもってそのことを立証してくれた。
ご自身の言葉を借りれば「想像を超えた領域」にまで応用され得る。CTスキャンや携帯電話の画像処理など、何十年も前の数学の理論を元にした技術は数多いが、証券取引のような思惑がからむ実利の世界にも数学は不可欠なのだ。
とかく目先の成果が求められがちだが、数学のような基礎的な学問は長い目でしっかり育てる必要がある。
おおもとの理論式は日本生まれでも、最先端の金融工学は米国で花開いた。日本はなぜ立ち遅れたのだろうか。
金融商品や技術を生み出す土壌となる市場の発達の違いは無視できないが、数学の理論は強いのに、応用面は弱いという日本の体質にも行き当たる。
米国では、数学も専攻した経済学者が「伊藤の公式」を武器に金融の難題に取り組み、その業績でノーベル経済学賞まで取った。経済の世界に関心を持つ数学者がいれば、数学に取り組む経済学者もいる。そんな人材の多様性は米国の大きな強みだ。
日本では文系と理系の壁に加え、同じ理系の中にも細かい垣根が生まれがちだ。数学を使いこなしてさまざまな課題に挑戦する気概が、数学の側にも他の分野にも乏しいように思われる。
同時に発表されたフィールズ賞では、100年来の難問とされる「ポアンカレ予想」を解く道を示したロシア人数学者が辞退した。前代未聞の話だが、当人としては、証明さえ正しかったなら「数学のノーベル賞」などはいらない、ということのようだ。
日本には、そのフィールズ賞受賞者はすでに3人いる。伝統的な強さを保ちつつ、弱い部分を鍛えたい。「先細り」が気がかりな日本の数学だが、伊藤さんの受賞をそんな懸念を吹き飛ばすきっかけにしたい。
【社説】2006年08月24日(木曜日)付
asahi.com
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