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余録
ガウス賞
惑星に昇格させるかどうかで天文学者の論議の的となっている小惑星セレスの軌道を最初に計算したのは19世紀前半のドイツの数学者ガウスだ。古代ギリシャ以来2000年越しの難題だった正十七角形の作図法を18歳で発見するなど天才にまつわる逸話は多い▲自ら「言葉を話すようになる前から計算をしていた」という数学の申し子だが、その才能は小惑星の軌道計算のような天文学や、測地学、電磁気学などの分野でも発揮された。だからその名を冠した賞は、数学の応用をめぐる貢献に贈られることになる▲国際数学連合が設けた第1回ガウス賞に輝いた伊藤清京大名誉教授が、その理論を最初に発表したのは戦時中の1942年、謄写版刷りの数学サークル誌でのことだった。自然界の不規則で偶然性をともなう現象を、数学的に表すための「確率微分方程式」を創案したのである▲その後この方程式が生物学などに応用されたのは予想の範囲内だろう。だが、これを株価や為替などの動きに応用し、偶然を操る市場の神様を出し抜こうと考えた人たちが現れる。「私の想像を超えた領域にまで成果を応用した方々」と伊藤さんは受賞の喜びの言葉の中で述べている▲この方程式をもとに株価や為替の予測理論を構築した2人の経済学者にはノーベル賞が与えられた。「伊藤の公式」は新たな金融商品を作り出す金融工学の柱をなし、米ウォール街のアナリストの必携装備となる。社会に影響を与えた数学の応用の近年最もめざましい事例というわけだ▲そのノーベル賞学者2人がかかわったヘッジファンドが破たんし、大騒動を引き起こしたのは方程式のせいではない。人の欲が度を越したのである。こちらの制御は数学をどう応用しても難しい。
毎日新聞 2006年8月24日 0時56分
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ガウス賞に京大名誉教授の伊藤清氏・国際数学連合
世界の数学者が組織する国際数学連合は22日、数学の応用で画期的な業績を挙げた数学者を表彰する世界最高の賞「ガウス賞」の第一回受賞者に、金融工学の発展に貢献した伊藤清・京都大学名誉教授(90)を選んだと発表した。スペイン・マドリードで開催中の国際数学者会議で決めた。
同賞の選考は今回が初めて。伊藤名誉教授は1942年に、偶然が左右する不規則な現象を分析する「確率微分方程式」を考案。当初は自然や社会現象を説明する物理学や生物学に応用されたが、80年代以降は金融工学分野で注目された。
伊藤名誉教授の成果はロバート・マートン米ハーバード大学教授らが金融派生商品(デリバティブ)の理論構築に応用、これにより、マートン教授らは97年にノーベル経済学賞を受賞した。このため、伊藤名誉教授は「米ウォール街で最も有名な日本人」といわれた。
受賞にあたり、伊藤名誉教授は「仲間はもちろん、私の想像を超えた領域にまで確率解析の成果を応用された方々とも、名誉と喜びを分かち合いたい」とのコメントを発表した。
伊藤□清氏(いとう・きよし)□1915年三重県生まれ。38年東京帝国大学卒、内閣統計局統計官、名古屋帝国大学助教授を経て、52年から79年まで京都大学教授、79年から85年まで学習院大学教授などを歴任。2003年文化功労者。90歳。
(2006/8/23 02:16)
metalglue | Shared With: Everyone - Aug 24 2006 | z-2006-gauss-award「実生活に役立つ数学」…初代ガウス賞に伊藤氏
67の国と地域の数学関連団体でつくる国際数学連合は22日、「ガウス賞」の初代受賞者に、金融工学などの分野で幅広く応用されている「確率微分方程式」を考案した京都大学の伊藤清名誉教授(90)を選んだ。同賞は、実生活に役立つ数学の応用で、世界最高の実績を上げた研究者を顕彰するため、天文学や物理学、統計学にも多大な影響を与えたドイツの数学者ガウスにちなんで同連合が創設した国際賞。数学のノーベル賞とされる「フィールズ賞」と並んで4年に1回開催される国際数学者会議で授与される。賞金は1万ユーロ(約150万円)。
伊藤名誉教授は、東京大理学部数学科卒業後、内閣統計局に勤務していた1942年、粒子の不規則な運動を予測する確率微分方程式を発表した。物理学や工学、生物学の領域で活用されたほか、80年代以降は、「デリバティブ(金融派生商品)」の価格決定に関する理論に応用された。「ウォール街で最も有名な日本人」と呼ばれている。
伊藤名誉教授は、「大変光栄です。私の研究を応用された人たちと喜びを分かち合いたい」とのコメントを出した。
金融革命生んだ方程式…デリバティブ価格決定に応用
半世紀以上前に打ち立てた純粋数学理論は、今や隆盛を極める金融工学の理論的支柱に発展した。22日、「社会に貢献した数学理論」として、国際数学連合のガウス賞を受賞した京都大学の伊藤清名誉教授(90)。現代経済の先端を支える実用研究は、日本人数学者の独創的な発想の上に花開いたことを世界に改めて示した。伊藤さんの理論は、株価のように“気まぐれ”に変動する現象を、確率論や微積分などの手法を巧妙に駆使して解析可能にしたものだ。伊藤さんが方程式を考案したのは、60年以上前の戦時中、内閣統計局に勤務していたころで、発表したのは、ガリ版刷り定期刊行物。純粋な数学理論としての発表だった。
この方程式を金融の分野に応用したのが「ブラック・ショールズ方程式」と呼ばれる理論。従来は経験や勘に頼っていた「デリバティブ(金融派生商品)」の価格決定が厳密に可能になるなど、金融界に革命をもたらし、考案者は1997年のノーベル経済学賞を受けた。
伊藤さんの業績に詳しい広島大の前川功一・金融工学プロジェクト研究センター長によると、ブラック・ショールズの方程式と、伊藤さんの方程式は、ウォール街を歩く金融アナリストらが持ち歩く、電卓の中に必ずプログラムされていたという。
前川センター長は「一つの公式が自然科学を変えるケースは多いが、社会でこれほど有用性を発揮した例はまれだ。ノーベル経済学賞を獲得してもおかしくなかった。今回の受賞は当然と思う」と話している。
(2006年8月23日 読売新聞)
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ガウス賞:伊藤清京大名誉教授が受賞 金融工学確立を評価
伊藤清・京都大名誉教授=京都大提供 国際数学連合(IMU)は22日、数学の応用に関する最高の貢献者をたたえる「ガウス賞」の第1回受賞者に、伊藤清・京都大名誉教授(90)=確率論=を選んだ。同賞はIMUが02年に創設を決め、4年に1度贈る。伊藤氏の理論は金融工学を確立し、金融派生商品(デリバティブ)の理論を生み出す基礎となるなど、現代の金融理論に大きな影響を与えた。
同日、スペイン・マドリードで開幕した国際数学者会議で授賞式があり、代理出席した三女の伊藤順子カリフォルニア大教授がメダルと賞金1万ユーロ(約150万円)を受け取った。
伊藤氏は1942年、数学同人誌「全国紙上談話会」に確率微分方程式論を発表。偶然性を伴う運動や現象を記述、説明する確率解析理論の先駆けとなった。「伊藤の方程式」などと呼ばれ、生物学など多くの分野に応用。金融工学では97年、方程式を基礎に「ブラック・ショールズ方程式」を考案、証明した米国の経済学者、マイロン・ショールズ教授とロバート・マートン教授がノーベル経済学賞を受賞した。
伊藤氏は「(米金融街)ウォール街で最も有名な日本人」と言われ、ウルフ賞、京都賞などを受賞した。伊藤氏は「大変光栄。私の想像を超えた領域まで確率解析を応用された方々とも、その名誉と喜びを分かち合いたい」とコメントした。
IMUには、数学のノーベル賞と言われる「フィールズ賞」と理論計算機科学分野での優れた研究に贈る「ネバリンナ賞」があり、ガウス賞は三つ目の国際賞。従来の2賞は40歳以下が対象だが、ガウス賞は年齢制限がない。【奥野敦史】
毎日新聞 2006年8月22日 20時18分 (最終更新時間 8月22日 23時00分)
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ガウス賞 数学の奥深さを知った
60年以上も前に考えた数式が、いま世界でもてはやされている金融工学の基礎を築いた。その功績が認められ、90歳の伊藤清・京都大学名誉教授に第1回ガウス賞が贈られた。
暮らしや経済に貢献した数学者をたたえようと、国際数学連合などが新たに設けた賞だ。賞名に冠したガウスは19世紀前半のドイツの数学者で「数学の王」とも呼ばれる。天文学や測地学などでも活躍し、惑星への昇格が話題を呼んでいる小惑星セレスの軌道も計算した。
最初の受賞者に日本数学界の先駆者が選ばれたことを心から喜びたい。
あわせて、この機会に考えたいことがある。
伊藤さんの数式は、偶然の要素が大きい分子の運動などを表すための理論研究の成果だ。80年代に入り、株価など不確実な現象を予測する方法として使われだし、金融工学を飛躍的に発展させた。
私たちは、6月13日の社説「数学の力」で、数学の理論は何十年もたってから応用の道が開ける場合が多いことを指摘した。伊藤さんは、身をもってそのことを立証してくれた。
ご自身の言葉を借りれば「想像を超えた領域」にまで応用され得る。CTスキャンや携帯電話の画像処理など、何十年も前の数学の理論を元にした技術は数多いが、証券取引のような思惑がからむ実利の世界にも数学は不可欠なのだ。
とかく目先の成果が求められがちだが、数学のような基礎的な学問は長い目でしっかり育てる必要がある。
おおもとの理論式は日本生まれでも、最先端の金融工学は米国で花開いた。日本はなぜ立ち遅れたのだろうか。
金融商品や技術を生み出す土壌となる市場の発達の違いは無視できないが、数学の理論は強いのに、応用面は弱いという日本の体質にも行き当たる。
米国では、数学も専攻した経済学者が「伊藤の公式」を武器に金融の難題に取り組み、その業績でノーベル経済学賞まで取った。経済の世界に関心を持つ数学者がいれば、数学に取り組む経済学者もいる。そんな人材の多様性は米国の大きな強みだ。
日本では文系と理系の壁に加え、同じ理系の中にも細かい垣根が生まれがちだ。数学を使いこなしてさまざまな課題に挑戦する気概が、数学の側にも他の分野にも乏しいように思われる。
同時に発表されたフィールズ賞では、100年来の難問とされる「ポアンカレ予想」を解く道を示したロシア人数学者が辞退した。前代未聞の話だが、当人としては、証明さえ正しかったなら「数学のノーベル賞」などはいらない、ということのようだ。
日本には、そのフィールズ賞受賞者はすでに3人いる。伝統的な強さを保ちつつ、弱い部分を鍛えたい。「先細り」が気がかりな日本の数学だが、伊藤さんの受賞をそんな懸念を吹き飛ばすきっかけにしたい。
【社説】2006年08月24日(木曜日)付
asahi.com
metalglue | Shared With: Everyone - Aug 23 2006 | z-2006-gauss-award
ガウス賞の伊藤名誉教授 「伊藤の公式」金融で開花
2006年08月22日23時02分
ガウス賞の第1回受賞者になった伊藤清さんは、三重県に生まれ、東京大理学部数学科を卒業した。
授賞理由は、水の分子運動などの自然界のランダムな動きを数式で表す確率微分方程式の創始だ。この理論は、内閣統計局に勤めていた戦時中の1942年、わら半紙に謄写版刷りの数学者仲間の「サークル誌」に最初に発表した。戦後は英語論文にしたが、当初はあまり評価されなかった。
その後、名古屋大助教授を経て京大教授に。さらに、米国のプリンストン高等研究所などでの研究活動を通じ、独創的な「伊藤の公式」が工学や生物学などに応用できると知られるようになる。注目が集まったのは、80年代、株価や為替の動きを数式で予測しようとする金融工学で応用されるようになってからだ。
97年、デリバティブ(金融派生商品)の理論で米国の2氏がノーベル経済学賞を受けた。授賞理由の「ブラック・ショールズ方程式」は「伊藤の公式」が土台になっている。当時、伊藤さんは「ウォール街で最も有名な日本人」と言われた。
小林孝雄・東京大教授(金融システム理論)は「金融工学のほとんどが伊藤先生の理論を基礎にしていると言ってもいい」という。
77年度に朝日賞、2003年に文化功労者。
今年から新しく設けられたガウス賞は、ビジネスなど社会に与えたインパクトの大きさが選考のポイントだ。伊藤さんの理論の波及効果は、新賞のイメージにぴたりとはまったようだ。
病気療養中の伊藤さんは「ともに数学の研究にいそしんできた仲間はもちろん、私の想像を超えた領域にまで成果を応用された方々とも、喜びを分かち合いたい」と文書でコメントした。
高橋陽一郎・京大数理解析研究所長は、「伊藤先生は純粋に数学として、原理を追究した。戦争は嫌いで、経済戦争も好きではない。先生の理論が、その武器になっていることについては、潔しとされないところもあるのでは」と心境を推し量った。

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